離婚

離婚の時に決める財産分与を有利に進めるための方法

  離婚の時に決める財産分与を有利に進めるための方法

1.そもそも財産分与ってなに?

慰謝料なら聞いたことがあるけれど、財産分与というのは聞き覚えがない――そんなシングルマザー候補は多いはずです。というのも世の中の一般の人たちは、離婚のときに(たいていは男性から女性に)払われるお金のことを、ひっくるめて慰謝料と呼んでしまうことが多いからです。

どう違うのかと言うと、慰謝料はあくまで、望まない離婚をさせられてしまうことや、離婚の原因となった浮気や暴力、相手の人の借金やギャンブル狂といった精神的な苦痛について弁償するものです。

いっぽう財産分与は、結婚生活の間にふたりの協力によって築き上げられた財産を、離婚時に分配することです。これは民法という法律の、第768条第1項に定められています。財産分与は、それぞれの貢献度に応じた比率で分配されるもので、必ずフィフティフィフティ、山分けになるわけではありません。

離婚というのは人生の大事件です。特に、夫の不倫が発覚したとか、巨大な借金を抱えていることが分かったとか、急な事態から離婚に発展している場合には精神的な動揺がつきものです。こんな男とは別れたいという一心で、財産についての取り決めもそこそこに離婚を進めてしまい、ほとんど何ももらわずに別れる人も少なくありません。

しかし、それで後悔する人もまた少なくないのです。できれば弁護士などに相談して、しっかりサポートしてもらい、正当な財産分与を勝ち取りましょう。ましてシングルマザーとなるあなたにとって分与される財産は、大切なお子さんの将来を決めるための資金となるものではないですか。

2.どんな財産分与があるの?

財産分与の種類には3種類あります。

2-1.清算的財産分与

財産分与の「基本」ともいえるものです。婚姻関係が続いている間に、ふたりが協力して形成維持してきた財産を夫婦の『共有財産』として考え、互いの貢献度合いによって分けることになります。

この共有財産というのは、財産の名義には関係ありません。預金通帳や家の権利書の名義が誰であろうと、それが結婚している間に夫婦で築きあげた財産の一部であれば、共有財産と見なされるのです。また、たとえ夫が稼いだ給料の貯金であっても、その稼ぎの陰に奥さんが家事を行ったことによる貢献――いわゆる「内助の功」がある場合には、立派な共有財産と見なされます。

反面、結婚前から持っていた貯金など、結婚中に築き上げたものでない財産については、財産分与の対象になりません。

2-2.扶養的財産分与

清算的財産分与だけでは、離婚後に夫婦のどちらかに生計を立てる方法がなく、生活に困るという事情が特にある場合。たとえば、離婚の時に片方が病気や高齢などの理由で働くことができないとか、専業主婦で経済力に乏しいという場合です。こういうケースではその人の生計を補助するという理由で財産分与がされる場合があります。これを扶養的財産分与と呼びます。

清算的財産分与は離婚のときいっぺんに支払われることが多いですが、不要的財産分与は定期的に一定額を払うという方法で支払われるのが普通です。

2-3.慰謝料的財産分与

最初に説明した通り、慰謝料と財産分与は、本来は別のものです。しかし、日本では欧米と違って、離婚のときに裁判を通さない方が普通です。裁判所はおろか弁護士も関与するとは限りません。慰謝料や財産分与についてもそこまで理屈を通さないことも多いのです。両方ともひっくるめて払ってしまうという方法がとられるケースも少なくありません。

すなわち財産分与のなかに、不倫をした慰謝料分とか、離婚を申し入れた側として払う慰謝料分とかを上乗せして、有責配偶者(離婚について責任がある人)がもう一方の配偶者に、多めに財産分与をする。これが慰謝料的財産分与です。

3種類の関係は、清算的財産分与がまず大前提としてあって、それに扶養的財産分与や慰謝料的財産分与とみられる分が上乗せされるというイメージです。

3.どんな財産を分与できるの?

夫婦が持っている財産には、財産分与の対象の財産と、ならないのでそのまま自分が持っていてよい財産があります。

財産分与対象の財産を「共有財産」、対象にならない財産を「特有財産」と呼んでいます。言葉の意味のイメージは「ふたりのもの」か「ひとりだけのもの」かということです。

しかし、上の清算的財産分与のところで説明したとおり、共有財産であるかどうかは名義とは関係ありません。奥さんが懸命に家事をして、美味しい食事をつくり、快適な家を維持することで夫の職業生活が成り立っているというのに、その給与が夫の預金通帳で管理されているというだけで財産分与の対象にならないとしたら、あまりに不当なことです。

家やその土地など不動産の名義にしても同じことです。そこで財産分与は、名義とは関係なく、その財産が実態として夫婦両方の貢献で作られた、または維持されたものかどうかという点で判断されるのです。

逆に言えば、夫婦のどちらかが結婚前から持っていた貯金は、その後で夫婦の貯金と同じ預金に組み入れられたとしても、財産分与の対象とはなりません

もちろん、全ての財産について、それがどのように手に入り、夫婦それぞれの貢献がどうであったかということを確定するのは、普通は無理です。

この解決策として、結婚している間に取得された財産は、共有財産であると「推定」します。「推定」というのは法律用語で「違うという証拠がなかったら、そうだということにする」という意味です。

つまり、結婚中に手に入った財産は、どちらかの特有財産とはっきりしないなら、共有財産として財産分与されることになるわけです。

ただし、正式な離婚をする前に別居していた場合は別です。この場合は、別居直前までの財産を共有財産とします。別居後に取得された財産は、もう夫婦が協力して得た財産とは呼べず、それぞれのものとして特有財産とするのが合理的と考えられているのです。

ちなみに、例外的に特有財産であっても、財産分与の対象になる場合があります。それは、取得自体は個人がしたものであっても、その後、夫婦のもう一方が管理することで価値が維持されたとか、さらに価値をアップさせたような場合です。

たとえば、夫婦の片方が、自分の親の死亡によって土地家屋を相続したとします。普通、夫婦のもう片方は、配偶者(結婚相手のことを法律ではこう言います)が土地家屋を相続したことについて、何の貢献もしていません。

しかし奥さんがその家を丁寧に掃除し、庭を草取りなどをしてきれいにしたり、夫婦の貯金を使って古い家の修繕をしたのであればどうでしょう。その結果、土地家屋の価額が上がったり、またはそのまま朽ちていくのが防がれて価額が維持されたとしたら。この場合は、その貢献度に応じて財産分与が認められることがあるのです。

4.財産分与の割合は?

では、共有財産はどのような割合で分割されるのでしょうか。

原則的には、1対1の割合で分割されます。女性は家庭に入るという考え方が薄れ、共働きの家庭がますます増えています。しかし共働きだからといって、収入に差が出ることは珍しくありません。しかし、その収入差がそのまま財産分与の割合になるわけではなく、基本的には1対1の割合で評価されます。

ダブルインカム(1世帯に二つの収入源があること)ではなく、妻が専業主婦の場合であり、会社員である夫の賃金収入に頼っている場合はどうなるでしょうか。たとえそういうケースであっても、夫の収入は妻が家事労働をした「内助の功」が大きく貢献しているという考えになるのです。理想的には50%とすべきかもしれませんし、実際にそういう場合もあるのですが、一般的には少なめに評価されることが多くなっています。2割から5割程度が判例の大半を占めています。

夫婦の片方の特殊な能力や、独特の功績で、高額な価値を持つ資産が形成されえることもあります。そのような場合には、分与の割合が修正されることはもちろんあります。

5.財産分与って具体的にどうやるの?

財産分与は、離婚について決められる決定事項の1つです。

なので、離婚についての当事者(夫婦)同士での話し合い、裁判所での離婚調停、離婚審判、離婚裁判のどれの中でも、財産分与をどうするかを決めることができます。弁護士に依頼するとスムーズにいくでしょう。しかし問題はその内容です。

分け方について制限はほとんどありません。実際のところ、お金であれば「1000万円を700万と300万にわける」というようにきれいな分割ができますが、土地や住んでいる家、車などの動産といったものは、お菓子を切り分けるように分けるわけにはいきません。そこで、次のような方法があります。

5-1.財産を売却し、現金として合計額を分割

一番スッキリする方法です。家や土地を残すと、どちらが住むかなどで揉める可能性も高いので、離婚するほど嫌な相手やその記憶とおさらばしたいという人には特におすすめです。ただし、家や車に愛着があっても手放さなければならないとか、有利な時期に加入した保険契約を解除しなければならないのが損である、といった問題はあります。家を引っ越すとなると、転勤・転校・転職などが伴うことも多いので、色々な問題があります。

5-2.お金以外の財産をどちらか一方だけのものとする

先ほども言いましたように、ケーキではないのですから、車や株券のような有価証券などは切ってしまうわけにはいきません。なので、どちらかがもらっておき、もう片方にその分お金での財産分与を増やすという方法もあります。

住み慣れた家や愛車、お気に入りの貴金属や美術品などを手放さなくて済み、残る方は引越しもしなくて済みます。また生命保険などは、加入した時期によって解約すると損になってしまう場合も多く、そのようなときには片方が譲り受けたりします。

子どもの教育保険についても、満額保険金を受けとるまで片方のものとすることが多いのです。しかし、離婚で教育保険を譲り受けるのは基本的にその子を養育する側です。そして親権は母親に行くケースが多いので、結局、シングルマザーの母親が教育保険を譲り受け、保険料を母親が払い続けるということになります。十分な収入のある女性ならともかく、多くのシングルマザーにとって負担が大きいことも否めません。

5-3.評価額で公平になるように振り分ける

上のように、誰に何が必要、誰が何に愛着がある、といった方法で財産を分けていくのも1つの方法ですが、それだけでは一方に価値のあるものが集中することになりがちです。

そこで、動産や不動産を売りこそしないものの、売った場合にいくらになるかなど金額に換算し価値(評価額と言います)を出し、その額面で公平になるように分配するという方法があります。

こうすると「家と土地は夫のものとし、預貯金や有価証券、自動車は妻のものとする」というような分割を、単に用途や必要性だけでなく、価値の面でも公平なものとすることができます。

注意が必要なのは、車や家などにローンが残っている場合です。たとえば3000万円の家でも1000万円のローンが残っている場合には、実際には、持主のものになっている家の価値は、3000万-1000万=2000万円しかありません。この場合、家の評価額は3000万円ではなく、2000万円となります。自動車の場合だとケタは1つ下がるでしょうが、理屈は同じです。

こうしたことを一方だけが知っており、片方は知らない状態で話し合いで決めてしまうと、騙される可能性があります。

具体的なやり方としては、まず共有財産のリストアップです。借金やローンなどもすべて計算に入れて書きだしてください。

特に重要なものは「預金通帳などのコピー」「お互いの給与明細」「証券口座の明細など」「生命保険金の額」「土地建物などの価額」「高価な動産(自動車・貴金属・美術品など)の価額」です。これらと比較すると家電製品などの雑多なものは、中古品の状態ではゼロに近いので省略しても差し支えありません。

6.もっと有利な財産分与を受けるためのポイント

では、財産分与において有利になるポイントはなんでしょうか。

6-1.相手の言うことを信用しない

最大のポイントはこれです。よくわからないことを、相手の言うままに鵜呑みにしないということです。

相手は財産隠しをしているかもしれませんし、財産の価値について嘘を言って、本当に高額なものを自分のものにしようとしているかもしれません。もしローンや保険などを管理しているのが相手なら、その金額を確認する際、口頭で言った金額を信用せずに、必ず書類など証拠を見せてもらうことです。

相手は弁護士に相談し、財産隠しのやり方やコツについて教授をうけている可能性もあります。そして「弁護士に相談したこと」自体も隠している可能性があります。どんな手を使ってくるか分かったものではありません。対抗するためには、安易に信用しない事。そして出来る限りこちらも弁護士の知恵を借りることです。

6-2.遠慮しない、よく見られようと思わない

あなたと彼は離婚しようとしていることを思い出してください。つまり彼にとってあなたは「どうせすぐいなくなる」女性でしかないのです。

彼はあなたが離婚後にいくら「騙された!」と叫ぼうと、極悪非道な人間だと思われようと一切困りません。扱われているのは数百万、数千万という財産であって、いなくなる人にどう思われようと、そんなことはどうでもよくなる大金の問題なのです。

そして彼は、そう思っていればいるほど、正当な権利や、言っていることの証拠を求めるあなたを「道徳的に」責め立てる可能性があります。がめつい、人を信用しない、金の事しか考えてない、そんなことでは今後俺無しで社会でやっていけないぞ、と不安を煽ろうとする人もいるでしょう。その言葉すべては、彼の利益のためだけにそう言うのです。あなたへの忠告でも子どものためでもありません。

それに負けてはいけません。どうせ離婚する相手です。がめついと思われても疑り深いと思われても一切構いません。相手に悪く思われることが不利益になるような関係は、すぐに切れます。あなたもそう思っていいのです。相手も絶対にそう思っているのですから。

不倫、暴力、子どもへの虐待、借金、ギャンブル狂………事情は様々ですが、彼はあなたが離婚を決意したような人ですので、確固たる態度で挑みましょう。

6-3.謙遜しない

財産分与では、財産を形成するにあたって、各自がどれだけ貢献したのかで分与割合が判断されます。

ということは、自分がどれだけ財産形成に貢献したかを強く主張することが大事です。たとえ給与自体は夫が会社勤めで貰ってきており、あなたが専業主婦であったとしても遠慮してはいけません。夫が家庭の事を気にせずに会社勤めに集中できたのは誰が家の事をやってくれていたおかげか、と強く主張しましょう。

また、取得には関係していなくともその後の管理などについて自分が貢献している特有財産(夫が相続し、夫婦の貯金で修繕した不動産など)があるのであれば、積極的に主張していきましょう。「言わなくても汲み取ってもらえる」ようなことはないと思っておきましょう。

7.借金も財産分与されてしまうの?

負の財産つまり債務・借金について触れておきます。

借金も普通の財産と同じように扱われ、夫婦共同のものであれば財産分与されます(つまり離婚後も負担することになります)。しかし、片方が勝手にギャンブルにはまって借金を繰り返したとか、不倫をして相手の女性に貢ぐために借金をしたというような場合には、夫婦共同の借金とは呼べないので分与はされません。本人だけがそのまま借金を負い続けることになります。

一方、夫婦共同の生活のために負っている借金、たとえば住んでいた家の住宅ローンや家族で使っている自動車のローンなどは財産分与の対象になります。こういったものは普通、家や車の評価額からローン残額を差し引くことで処理しています。たとえば100万円の車のローンのうちあと20万円残っているなら、80万円の車であると考えるわけです。

8.財産分与の時期は?

財産分与について取り決めるのは、普通は離婚のときです。しかし離婚時に財産分与について明らかにしておかなかった場合でも、2年間のうちなら後から請求することができます(民法768条第2項但書)。この期間を「除斥期間」と呼んでいます。

2年という期間は長いようで短いです。特に離婚後のどたばたした時期に、生活を立て直してから……などと考えていると、いつの間にか過ぎてしまうような期間です。

また、離婚後はもう一緒に暮らしていないので、相手の財産を調べることが簡単ではありません。しかも悪意のある相手であれば、財産を隠すための時間的余裕を与えることにもなります。こう考えてみると、落ち着いてからではなく、離婚時になんとか財産分与について決めておくことが後々安心です。

ちなみに、財産分与の調停や審判を申立てをした後、手続きが終わるまでに2年間が過ぎてしまった、という場合はどうなるでしょうか。この場合は、その手続きが確定するまでは分与の請求が有効のままとなります。そのため期限が近い場合には、相手の財産調査がまだであっても、ひとまず調停・審判の申立てをしておいて、それから調査を進めるのが得策でしょう。

9.財産分与は弁護士さんに相談した方が良い?

結論から言いますと、絶対に弁護士に相談した方が良いです。相手だって弁護士に相談し、しかもそれを隠している場合があります。もしそうだったら相手だけが有利な知識を大量に持っており、こちらは知識のない状態で素手で立ち向かわなければならないことになり、圧倒的不利な状況に落とされます。

財産の探し方、評価の仕方、通知や請求の仕方……弁護士はこういう争いごとのプロです。力を借りない手はありません。しかも、何をやってはいけないかということも弁護士は熟知しています。請求ひとつとっても、たとえば不用意に「払わなければこんなことになるぞ」などと言えば、脅迫罪が成立する可能性があります。

また、本人以外の周囲や会社などに対して、その人がいかに酷いことをしたか愚痴や文句を言っただけで、名誉棄損罪という犯罪になることだってあるのです。ちなみに名誉棄損罪は、その内容がたとえ全部本当のことであっても、犯罪になりえます。

もしそういうミスを犯してしまったら、相手は告訴や通報をちらつかせて、あなたに手を引かせようとするでしょう。離婚というと、あくまで男と女の俗っぽい話で、法律が入る余地はそんなにないように思えるかもしれません。

ですが、実際はさまざまな制度や権利が絡み合った複雑な法律問題なのです。弁護士の手助けなしに、その複雑な法律問題とやりあっていくのは、最初から法律に詳しい人でもないかぎり至難の業なのです。

 

また、個人同士の話し合い(協議)ではすまず、調停や審判、人事訴訟(いわゆる離婚裁判のことをこう呼ぶのです)になだれこんだ場合、弁護士抜きでやるのは至難の業です。最初から法律を熟知している人以外は不可能でしょう。

そうなると決まってから弁護士を探し、今までどういうことがあったかを逐一説明して、途中から事件として担当してもらうのはけっこう大変です。それでも弁護士は優秀ですから力を発揮してはくれますが、しかし離婚騒ぎの早いうちから関与してもらって、万全の状態で調停や裁判に臨んでもらうのとでは、やはり違います。

さらに、離婚後に財産分与請求をする際、相手の財産調査に特に役立つ権限を弁護士は持っています。弁護士にだけ使える「弁護士照会制度」というものがそれです。これは役所など様々な機関に対して、弁護士会を通して必要事項の質問ができるという権利です。

普通なら分からないような、相手の貯金や給与の状況というものを知るのに、弁護士さんのこの権限は非常に役立つのです。

弁護士の助力があるのとないのとでは全く違うということが分かるでしょう。